上水道の国際技術協力 歴史と成果

上水道の国際技術協力

安心・安全な水をみんなのものに

 上水道分野では、1999年に始まったカンボジアへの国際技術協力を始めとして、東南アジアを中心に国際技術協力を展開しています。水道インフラの運転指導から法制度整備まで幅広い分野で、人材育成などソフト面での支援を中心に行っています。
 安心・安全な水を安定して供給できるようになることにより、現地の衛生・経済・教育等の水準の向上に貢献します。

シャワーを浴びる海外の子どもたち

カンボジア

カンボジア国旗

 1999年、カンボジアの首都プノンペン都への技術協力に始まります。北九州市の協力もあり、プノンペンの水道品質は劇的に向上、アジアでは数少ない「水道水の飲める町」になりました。この成果は、「プノンペンの奇跡」と称賛されています。
 プノンペンの成功の後も、北九州市は、カンボジア政府に対して継続的な支援を行い、地方都市の水道事業の改善につなげています。現在、カンボジアの水道行政所管官庁である工業科学技術革新省(通称:MISTI)への技術協力を行い、国全体として水道行政能力の向上を目指しています。

カンボジア位置図

実施したプロジェクト

JICA技術協力プロジェクト「カンボジア国水道行政能力向上プロジェクト」
時期:2018年7月~2023年3月

プロジェクト概要

 カンボジアの水道行政を所管する工業科学技術革新省(通称:MISTI)と協力して、カンボジア全土の水道供給能力向上のため、組織体制強化・人材育成へのサポートを行っています。

プロジェクトでの主な取組

長期専門家の派遣
2018年~ 1名

短期専門家と現地政府スタッフ
短期専門家と現地政府スタッフ

短期専門家(派遣期間:3か月程度)の派遣
2019年 3名

短期専門家と現地政府スタッフ
短期専門家と現地政府スタッフ

カンボジアから北九州市への研修生の受入(研修期間:3週間程度)
2019年 10名

TOPICS
現地で活躍する長期専門家の声

カンボジア派遣
YouTube動画イメージ

 技術協力とは元来、現地の人々と膝を突き合わせ、相手の意見をよく聞き、寄り添いながら仕事を進めていくものです。しかし、新型コロナの影響で大勢を集めて研修を行うことが難しくなりました。
 そこで、現在、YouTubeを活用した研修教材の作成を進めています。カンボジアではスマートフォンを所有する人の割合は極めて高く、一人で複数台所有している人も珍しくありません。また、受講生が全国各地に散らばっていることもあり、YouTube を活用することによって、いつでも・どこでも研修教材にアクセスすることが出来るようになります。この試みは始めたばかりで、試行錯誤を繰り返しています。
 現地にいる私が出来ることをしっかりと考え、行動し、現地の課題解決に向け、これからもカンボジアに寄り添った技術支援を行っていきます。
(2018年7月~ カンボジア派遣 上下水道局 海外事業課 海外事業担当係長 矢山 将志 )

これまでの主要技術協力プロジェクト

JICA技術協力プロジェクト「水道事業人材育成プロジェクト・フェーズ3」
時期:2012年11月~2018年6月

プロジェクト概要

 カンボジアのシェムリアップ市など8都市の地方水道を対象に、公営水道の経営管理能力向上を目標として、支援を行いました。

成果

 プロジェクト開始当初、8都市中7都市が単年度赤字決算という厳しい財務状況でしたが、カンボジア政府との協力により事業を進め、2017年決算時においては8都市中全てが単年度黒字に転換するなど、大幅な改善が見られました。

主な活動

派遣者数:39名 / 研修受入数:26名

浄水場施設(バルブ)の更新計画について確認
浄水場施設(バルブ)の更新計画について確認

JICA技術協力プロジェクト「水道事業人材育成プロジェクト・フェーズ2」
時期:2007年5月~2012年3月

プロジェクト概要

 カンボジアのシェムリアップ市など8都市の地方水道を対象に、施設の運転・維持管理能力向上による安全な水の安定供給を目標として、支援を行いました。

成果

 水道施設の適正な運転・維持管理能力が向上し、住民に対して、安全かつ安定した給水を行うことが可能になりました。

主な技術協力の成果
2006年地方8都市における改善状況2011年
2~3項目水質検査項目20項目
飲用不適水質水質が大幅に改善
30.5%無収水量率(8都市平均)17.4%
主な活動

派遣者数:38名 / 研修受入数:20名

地方都市でのバルブ操作指導
地方都市でのバルブ操作指導

JICA技術協力プロジェクト「水道事業人材育成プロジェクト・フェーズ1」
時期:2003年10月~2006年10月

プロジェクト概要

 首都プノンペンに対して、配水管理能力向上、浄水場の適正な運転・維持管理能力向上を目的として、人材育成などの技術協力を行いました。

成果

 内戦終結直後の1993年に70%程度だった無収水率(漏水+盗水)が、先進国並みの8%に低減し、飲料可能な水道水を実現させるなど、「プノンペンの奇跡」といわれる大きな成果をあげた。

主な技術協力の成果

※2005年 プノンペン水道公社が飲用可能宣言

1993年プノンペンの飛躍的改善2006年
25%行政区域内水道普及率90%
10時間給水時間24時間
72%無収水量率8%
(北九州市並)
主な活動

派遣者数:20名 / 研修受入数:15名

プノンペンでの空気弁維持管理指導
プノンペンでの空気弁維持管理指導

JICA草の根技術協力事業「カンボジア・シェムリアップ市における水道施設管理能力の向上事業」
時期:2013年9月~2015年8月

プロジェクト概要

 観光都市として急速な発展を続けているシェムリアップ市は、水道供給能力が不足しています。そこで、水需要に対応するための施設改善や水道施設設計に係る技術支援を行いました。

成果

 シェムリアップ水道公社の職員の技術力向上が見られ、水道の安定供給に貢献することができました。

北九州市での研修
北九州市での研修

ベトナム

ベトナム国旗

 北九州市の姉妹都市であるベトナム・ハイフォン市に対して、2010年から国際技術協力を進めています。ハイフォン市の人口は約200万人。ベトナムで3番目に大きな都市です。海に面しており大型河川の下流部に位置しています。上流域に首都ハノイがあり、国の経済発展に伴い河川の水質悪化が進んでいます。
 そこで、北九州市の独自の高度浄水処理技術「上向流式生物接触ろ過(U-BCF)」が応用できないか、実証実験を行ってきました。2021年現在、ハイフォン市の主力浄水場で導入のための工事が進んでいます。
 また、同じように水質悪化に悩むベトナム6都市に対して、U-BCF導入のための調査を実施しました。今後、ベトナムでのU-BCFの展開が期待されます。

ベトナム位置図

これまでの主要技術協力プロジェクト

JICA事業:中小企業海外展開支援事業「ベトナム国上向流式生物接触ろ過を活用した浄水処理の普及・実証事業」
時期:2016年2月~2019年2月

プロジェクト概要

 ハイフォン市で実用化が進む北九州市の独自の浄水処理技術U-BCFを、ホーチミン市などベトナム6都市に対して、実証実験を行いました。

成果

 ホーチミン市などU-BCF導入への機運が高まり、今後の更なる普及が見込まれます。

ベトナム6都市でのU-BCF実証実験
ベトナム6都市でのU-BCF実証実験

JICA草の根技術協力事業「ハイフォン市・配水管網管理の能力向上事業」
時期:2013年~2015年

プロジェクト概要

 ハイフォン市水道公社は、水道原水の汚染だけではなく、市民の公衆衛生に直結する「給水区域の拡張」と「無収水量の削減」を抱えていました。そこで、配水管網管理の能力向上に向けた技術協力を実施しました。

成果

 無収水量削減対策、配水ブロック、マッピングシステムについて、OJT・Off-JTでの指導を行い、ハイフォン市水道公社の職員の能力向上が図られました。また、北九州市の中小企業のマッピングシステムがハイフォン水道公社に採用されるなど、水ビジネスへつながる成果も出ています。

H26JICA草の根無収水量削減3
H26JICA草の根無収水量削減3

JICA草の根技術協力事業「有機物に対する浄水処理向上プログラム」
時期:2010年~2012年

プロジェクト概要

 ハイフォン市の大きな課題であった生活雑排水による水道原水の有機物汚染対策について、技術支援を行いました。

成果

 水道原水の有機物汚染対策の解決に向けた取り組みに一定の目途がつき、北九州市の独自の高度浄水処理技術U-BCF導入が推進されることになりました。

ハイフォンでのU-BCF実証実験
ハイフォンでのU-BCF実証実験

ミャンマー

ミャンマー国旗

 ミャンマー・マンダレー市は、人口約120万人、ミャンマーではヤンゴン市に次ぐ第2の都市です。人口は年々増え、急速な発展を遂げています。
 一方、水道分野では、市内の水道普及率は70%程度で、24時間連続給水も一部の地域でしか達成していません。また、停電等による断水もしばしば発生しており、安定した水道サービスにはほど遠い状況です。
 現在、マンダレー市では、約9割の水源を井戸水に頼っていますが、増大する水需要に対応するため、河川を水源とする大規模な浄水場の整備が喫緊の課題です。そこで、既存の浄水場を大幅に改修し、先進国の大都市で主に採用されている急速ろ過方式という処理方式を用いて、処理能力の大幅な向上を目指すことになりました。
 しかし、マンダレー市には急速ろ過方式に関する十分な運転管理ノウハウがなく、期待した量の浄水処理ができていない状態でした。
 そこで、急速ろ過浄水場の運転管理に豊富なノウハウを持つ北九州市が国際技術協力を行っています。

ミャンマー位置図

現在進行中のプロジェクト

JICA草の根技術協力「マンダレー市における安全で安定した水供給能力向上プロジェクト」
時期:2020年1月~2023年12月(予定)

プロジェクト概要

 マンダレー市が新たに導入した急速ろ過方式の浄水場における運転維持管理の指導を行っています。また、本市独自の高度浄水処理技術「U-BCF」の普及など新たな水ビジネスの案件形成につなげていきたいと考えています。

急速ろ過方式の浄水場

これまでの主要技術協力プロジェクト

JICA草の根技術協力事業
ミャンマー・マンダレー市における浄水場運転管理能力の向上事業
時期:2013年12月~2016年11月

プロジェクト概要

 マンダレー市の緩速ろ過方式の浄水場において、水道水の消毒が十分でないなどの課題を抱えており、塩素生成設備の供与や運転維持管理指導などを実施しました。

成果

 浄水場に塩素生成設備が設置され、また、浄水場職員の運転維持管理能力も向上したことにより、マンダレー市給水区域内において消毒された安全な水が供給されるようになりました。

塩素生成設備の供与
運転維持管理指導