世界に飛び出す北九州市の技術~北九州市の海外水ビジネスを徹底取材!~

タイトルバナー

エンジニアは世界を目指せ! カギは、行動力とコミュニケーション能力!

 

 北九州市は30年以上にわたり、東南アジアを中心とした開発途上国に対して上下水道の国際技術協力を進めており、さらに国際技術協力で築いた相手国との信頼関係を土台として海外水ビジネスにも取り組んでいます。

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、海外との往来が制限される一方、公衆衛生の観点から安全な水環境の整備を求める声はますます大きくなっています。そのような期待と責任を背景に、北九州市の進める上下水道の国際協力・海外水ビジネスは着々と進めれられています。

 2021年9月、北九州工業高等専門学校(北九州高専)の学生5名が、北九州市海外水ビジネス推進協議会の会員企業・関係機関の皆さんにインタビューを行いました。さらに、北九州市の技術が海外でどのように生かされているのかを学ぶため、ハイフォン水道公社の皆さんにもオンラインでお話を伺いました。どなたも学生たちの質問に、真摯に答えていただき、学生たちに今後進むべき方向を示してくれました。

 そのインタビューに基づき、高専生が、地元企業の魅力・本市の特性を生かした国際協力・海外水ビジネスについてレポートします。北九州市では、たくさんの海外水ビジネスのプロフェッショナルが活躍しています!

目次

第1話 北九州市はなぜ海外事業を進めているの?(北九州市海外水ビジネス推進協議会)
第2話 国際技術力を行う意義とは?(JICA九州)
第3話 世界に飛び出す北九州市の中小企業①(ジオクラフト)
第4話 世界に飛び出す北九州市の中小企業②(ユニ・エレックス)
第5話 「チーム北九州」で北九州市の独自技術をベトナムに展開①(本城浄水場、神鋼環境ソリューション)
第6話 「チーム北九州」で北九州市の独自技術をベトナムに展開②(山九、北九州マイスター)
第7話 ベトナム・ハイフォン水道公社トップに聞く。「北九州市の若者への期待」(ハイフォン水道公社)
最終話 取材を終えて ~エンジニアとして海外で活躍するというキャリア~

≪関連動画≫ 北九州高専×北九州市上下水道局 北九州の水ビジネスを徹底取材!(取材内容をコンパクトな動画にまとめています)

訪問先を示した北九州市の地図

第1話 北九州市はなぜ海外事業を進めているの?

北九州市海外水ビジネス推進協議会(KOWBA)

Webサイト:https://kitaq-water-intl.jp/kowba/

お話:

北九州市海外水ビジネス推進協議会副会長 有田 仁志さん

                事務局長 石井 秀雄さん

展示会に出展する海外水推進協議会会員
ベトナムでの展示会に出展する協議会と会員企業

―北九州市海外水ビジネス推進協議会とはどんな組織ですか?

 開発途上国における急速な経済成長に伴い、水ビジネスの市場規模は急速に拡大しており、2030年には世界の水ビジネス市場は110兆円に達するそうです。世界の水環境の改善のためには、日本の優れた技術やノウハウを展開していくことが重要です。

 海外水ビジネスを進めていくためには、上下水道の運営主体である地方自治体と民間企業が協力して事業を進めることが大切です。そこで、北九州市は、2010年、全国に先駆けて、官民連携組織「北九州市海外水ビジネス推進協議会(KOWBA)」を設立しました。

 2021年9月現在、140社を超える企業が参加しており、海外水ビジネスの推進のため、セミナーや展示会出展、勉強会などを行っています。

―水道設備が整備されるまでの東南アジアの開発途上国の様子はどんなものでしたか?

 カンボジアの一般家庭を訪問し、ヒアリングをしたことがあります。水道が整備される前は、川の水など汚水が混じった不衛生な水を飲んで、体調を崩すことがしばしばありましたが、家に水道設備が整備されてからは、体調を崩すことがなくなったそうです。水道インフラは、市民の健康的な生活に直結しています。特に、乳幼児にとっては、命に関わりかねない問題です。

―相手国の上下水道事業を発展させるためにはどのようなことが必要ですか?

 浄水場などのインフラを作って終わりではありません。毎日の運転やメンテナンスのノウハウを伝えないといけません。たとえば、日本のインフラの現場では、整備・点検を毎日欠かさず行うことは当然のことですが、相手国の担当者は、その重要性に気づいていないことがあります。そのような経験や知識を伝えていくことも大切です。

 開発途上国に行くと、日本の技術とノウハウは、一朝一夕で簡単に身につくものではないと感じます。地道な国際協力を通じた、人材育成が必要です。

 また、下水道インフラは、水道に比べて後回しになりがちです。自分たちの暮らしを自分たちで苦しめないためにも、下水道が必要であるということを伝えていくことが大切です。

名刺交換をする学生とKOWBA副会長
インタビュー冒頭では、名刺交換などの社会人のマナーも教えてもらいました。

―社会人として心がけていることはありますか?

 企業であれ、行政であれ、仕事をする際には「使う人の幸福のために動くべき」と心がけています。そして、自分たちがやっていることが世の中にどのように反映されているかを常に考えることが大切です。

―エンジニアとして活躍するためには、何が必要ですか?

 第一に、「やる気」が大切です。知識は、仕事をする中で自然と身についていきます。しかしながら、納期までに仕事を終えるためには、最後までやり遂げる「やる気」が大切です。

 二番目に、コミュニケーション力が大切です。仕事は、常に誰かと「一緒に」するものです。エンジニアは一人で仕事をするものではありません。常に共同作業です。

 最後に、エンジニアは世界で活躍することを意識しなければなりません。英語はできるに越したことはないので、しっかり勉強して下さい。

≪取材を終えて≫

 お話を聞いたKOWBA有田副会長は、北九州高専のOBでした。海外水ビジネスのお話だけでなく、社会人の先輩としてお話をしてもらったのが印象的でした。

記念写真をとるKOWBA副会長

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第2話 国際技術協力を行う意義とは?

国際協力機構九州センター(JICA九州)

Webサイト: https://www.jica.go.jp/kyushu/

お話:

JICA九州 市民参加協力課 東 万梨花 さん

      研修業務課   小川 容子 さん

JICA草の根技術協力プロジェクト
JICAの支援メニューを用いて、ベトナムで北九州市の独自技術の実証実験を行う。

―JICAとはどのような組織なのでしょうか?

 世界に約200ある国の中で、150カ国ほどはいまだ開発途上国です。開発途上国は、環境、貧困、資源、感染症などの多くの問題を抱えています。

 JICAは、日本の政府開発援助(ODA)を一元的に行う実施機関として、開発途上国への国際協力やインフラ開発支援などを行います。青年海外協力隊もJICAの業務の一つです。 JICA 九州は北九州市八幡東区にあり、九州の拠点として、九州の自治体や企業の国際協力の窓口、開発途上国からの研修生の受入れなど幅広い活動を行っています。

―開発途上国が抱えている問題はその国だけの問題なのでしょうか?

 その国だけでなく、世界規模で解決していくことが必要です。なぜ世界規模で解決していかなければならないかというと、食料やエネルギーなど、自国だけでなく、異なる国同士でお互いに支えあっています。私たち日本も開発途上国に頼ることが多くあり、開発途上国は先進国にとっても大切なパートナーとなっているからです。

―開発途上国で仕事をするやりがいとは何ですか?

 日本では清潔な上下水道は当たり前ですが、開発途上国では当たり前ではありません。インフラ整備のため、日本にできることがたくさんあります。

 先進国では仕事の手順などのシステムが確立していることが多いですが、開発途上国ではそうとは限りません。そのため、開発途上国では自分で動ける幅が大きく色々な経験でき、いろいろな人と協力して物事を達成した時の達成感がとても高いです。このように海外で経験を積むことでコミュニケーション能力が上がり、柔軟性が身に付きました。

―JICAのビジョンにある「質の高い成長」とは具体的にはどのような成長を目指しているのですか?

 一部の人だけが利益を得るような成長ではなく、他にも伝播していくような成長だと考えています。道路や鉄道などインフラの建設でも、環境や生態系に配慮した開発を考慮して、プロジェクトを進めています。

―北九州市がベトナム・ハイフォン市で展開している浄水処理技術の支援(U-BCF:上向流式生物接触ろ過)はJICAの支援メニューが使われていると聞きました。この技術支援についての感想を教えてください。

 当事業は、最初にJICA草の根技術協力事業を通して、スタートアップ的に始まりました。その後、ハイフォン市の主力浄水場への同技術の本格導入につながりました。北九州市が先頭に立って、民間を巻き込んで活動している姿が印象的でした。JICAのスローガンに「世界を元気にする、そして、日本を元気にする」とあるのですが、そのイメージ通りです。

― U-BCF の実証事業において苦労したことがあれば教えてください。

 相手国の担当者との信頼関係を築いていくのが本当に大変だと感じます。北九州市は、ハイフォン市の担当者と固い信頼関係を築いており、素晴らしいと感じました。

―開発途上国で仕事をするにあたって、日本で仕事をする際との大きな違いは何ですか?

 文化、生活、価値観が大きく違います。自分の思うようにいかないことが多々あります。日本ではおっとりとした人でも、現地ではしっかりと自己主張をして、積極的に活動しないといけないですね。

―学生への期待を教えてください。

 中米のある国では水道が十分でなく、青年海外協力隊として生活をする中で、コップ一杯の水で体を洗う術を身に着けました。水は本当に大切です。(笑)

 海外に行って、日本では絶対に立ち会えないようなピンチに立ち向かってください。

≪取材を終えて≫

 今回、お話を聞いたお二人は青年海外協力隊として開発途上国で活動されていたそうです。お話を聞いて、私も海外で仕事をしていろいろな経験を積んでみたいと思いました。しかし海外で仕事をするには言語や文化などたくさんの壁があります。文化の壁は厚いかもしれませんがせめて言語の壁くらいは突破した状況で仕事に臨んでみたいと思いました。

オンラインでのインタビュー
JICA九州は、北九州市内に拠点がありますが、新型コロナの影響によりオンライン会議に。どんな質問にも丁寧に答えていただきました。

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第3話 世界に飛び出す北九州市の中小企業①

株式会社ジオクラフト

Webサイト: http://geo-craft.co.jp/

お話:

株式会社ジオクラフト 代表取締役        石原 均 さん

           情報システム技術部 部長 西村 ゆか さん

ベトナムからの研修生にソフトの操作方法を指導
ベトナムからの研修生に自社システムの操作方法を指導(ジオクラフト)

―どのような事業をされているのですか?

 小倉北区に本社を構える企業で、社員数は6人です。情報処理業務を事業としており、GIS(地理情報システム)を用いた上下水道のマッピングシステム等を、地方自治体に提供しています。最適なシステム構築に関するコンサルティングから、ソフトウェアの設計、開発、初期データの入力から更新、人材育成まで幅広くサービスを行っています。

―ITで上下水道を支えるメリットとは何ですか?

 上下水道のライフラインは地下に埋設されてあり、目には見えません。しかも、そのボリュームは膨大なものであり、長期スパンで管理していく必要があります。システム化を進めることにより、正確な資産管理、維持管理の効率化、迅速な事故対応、技術の継承支援などの様々なメリットが生まれます。

―海外進出した目的は何ですか?きっかけも教えてください。

 日本ではマッピングシステムは、ほぼ全ての自治体に導入されており、今後、大型の新規案件は期待できません。そこで、今後、伸びしろの大きい開発途上国で、自分たちの技術を試してみたいと思い、海外進出にチャレンジしています。

 カンボジア・ベトナムで、北九州市と連携して、技術支援やシステム構築に関するコンサルティングなどに取り組んでいます。

会社の説明をする社長
自社の製品を用いて、実際にマッピングシステムについて教えてもらいました。

―仕事として初めて、海外に出張した際の感想を教えてください。

 ベトナムに出張した際に、若者が多く、街がエネルギーであふれていると感じました。高度経済成長期の日本と同じ雰囲気を感じます。

―海外水ビジネスに参入することによって会社全体にどのような影響をもたらしていますか。

 会社が海外と関わるようになって、日本や会社を客観的に、外側から見ることができるようになったと感じています。また、日本との文化の違いなどを知ることができました。開発途上国での仕事では、自分の動ける幅や仕事のできる幅が広いなどの魅力を感じ、海外の仕事を積極的に進めていきたいと思うようになりました。

―高専生への期待やアドバイス

 やはり仕事は楽しくないと続かないと感じます。私たちの仕事も年度末は休日返上となって、きついこともありますが、やり遂げた際の達成感は格別です。ぜひ、好きな仕事を見つけてください。

≪取材を終えて≫

 社長さんが「これはオフレコだよ」と言って、ざっくばらんなお話をたくさんしてくれるのが印象的でした。お話の中で、東南アジアはエネルギッシュとありましたが、社長さんにもエネルギーを感じました。

ジオクラフト石原社長と一緒に。

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第4話 世界に飛び出す北九州市の中小企業②

株式会社ユニ・エレックス

Webサイト: http://www.uni-elex.co.jp/

お話:

株式会社ユニ・エレックス 工事部 部長 利光 晋吏 さん

北九州市内の本社を訪問して、取材を行いました。

―会社の概要を教えてください。

 小倉南区に本社を構え、電気計装・制御盤の設計、工事を行っています。北九州市上下水道局にも水道流量計の制御盤を多数納品しています。その他にも火力プラントや石油プラントの制御盤など、日本全国に多数の納入実績があります。

―技術の現場で働くにはどのような能力が必要でしょうか?

 技術の現場では、施工管理や設計、工事など様々な立場の人が働いています。その中でスムーズに現場を回していくには、「報連相(ほうれんそう)」が大事です。コミュニケーションをしっかりとるように心がけています。仕事相手とのお互いの信頼関係を築いていかないといけません。

 コミュニケーションを心がけることで、結果的に自分の負担を減らすことができます。一人で抱え込む必要はないですよ。

―御社が海外進出したきっかけは何ですか?

 もともと要望があれば、海外の現場に出ていくことはありました。水道分野でカンボジア・ベトナムで業務をすることになったのは、北九州市上下水道局からの声かけでした。

 それまで、現地派遣の市職員が帰国した際に、当社の製品を持ち帰っていたのですが、電圧や周波数等、規格が日本とは異なることが多く、それを解決するために、こちらから現地に直接出向くようになりました。

ベトナムでの技術会議に参加(ユニ・エレックス)

―海外出張の際の印象などを教えてください。

 初めての海外出張は、台湾でした。あまり経験がなかったので、心配が多かったのですが、現地では皆さんに良くしてもらって、楽しかった印象しかありません。

 カンボジアとベトナムは隣り合わせの国なのですが、国民性や雰囲気がずいぶん違うと感じました。どちらの国も、食文化や衛生状態が日本と全然違いますので、体調管理には十分な注意が必要です。

 また、カンボジア・ベトナムでは、現地の人に日本人として一目置かれていると感じることが多々あります。やはり、日本人の先輩方が現地で築いた信頼関係は偉大です。海外に行っても、日本人として自信を持って誠実に対応すれば、問題はありません。

―海外で仕事をしてみたいと思う学生に一言お願いします。

 文化・慣習が異なり、日本のような暗黙の了解は通じません。相手国のことをしっかり理解しておくことが大切です。外国語もやはりできた方が良いです。

≪取材を終えて≫

 お話を頂いた利光さんは、現地でたくさんの写真を撮っており、一枚一枚丁寧に説明して下さいました。現地を訪れて、初めてわかるものも多いそうです。ぜひ自分の目で、海外の現状を見てみたいと感じました。

会社の会議室には、カンボジアとベトナムの国旗と地図が掲げられていました。

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第5話 「チーム北九州」で北九州市の独自技術をベトナムに展開①

1 本城浄水場

 Webサイト:https://www.city.kitakyushu.lg.jp/suidou/s00900016.html

お話:

 上下水道局海外事業課 海外事業担当係長 矢山 将志 さん

                  主査 大島 佳希 さん

 本城浄水場は、北九州市の主力浄水場の一つであり、遠賀川を主な水源としています。北九州市が、ベトナムで展開している高度浄水処理技術(U-BCF:上向流式生物接触ろ過)を実際に確かめるために、本城浄水場を訪問しました。当日、浄水場を案内してくれた矢山さんはカンボジアで長期派遣専門家として3年間、大島さんは同じくカンボジアで短期専門家として3か月間の国際技術協力の経験があるそうです。

カンボジアでの国際技術協力
カンボジアでの市職員による技術指導の様子
本城浄水場U-BCF
本城浄水場のU-BCF施設を上から
U-BCF上部着水井

 水源から入ってきた水は、 U-BCF の高い位置まで送られます。高さを利用し、上から下へ水を流すことで、電力の消費をおさえます。川の水をそのまま持ってきているので、においが強い日があるそうです。

U-BCF内部

 活性炭を活用して、水処理を行うエリアです。活性炭には微生物が住み着いており、自然浄化の作用で、有害物質を処理します。

U-BCF処理後の水

 高度浄水処理済みの水です。この時点でとてもきれいで、においもなく、透明な水が流れていました。

本城浄水場急速ろ過部

 高度浄水処理が完了した後、一般的な方式で浄水処理を行います(急速ろ過方式)。

浄化処理済みの水

 浄水処理が完了した水は、とても澄んでいて、きれいでした。最後に塩素を注入して、家庭へ配ります。本城浄水場は、一日7万トンもの水を処理しているそうです。

≪取材を終えて≫

北九州市の水処理の特徴についての講義

 本城浄水場の視察に先立ち、北九州市で長らくU-BCFの開発に携わってきた原口 公子さん(現:NPO 法人遠賀川流域住民の会事務局長)から、北九州市の水質改善の歴史、U-BCFの技術的な特徴や応用可能性などのレクチャーを受けました。座学と現地視察を組み合わせることで、より一層理解を深めることができたと思います。

 また、実際に浄水場を訪問すると、浄水場はとても規模が大きく、たくさんの施設や設備で構成されていることがわかりました。地震などの災害で施設に被害が出た際に対応ができるのだろうかと心配しましたが、非常時には他の主力浄水場と水の融通をする仕組みがあり、簡単に水の供給が止まることはないそうです。その設計思想に驚きました。


2 株式会社神鋼環境ソリューション

 Webサイト: https://www.kobelco-eco.co.jp/

お話:

株式会社神鋼環境ソリューション

環境エンジニアリング事業本部 営業本部 海外営業部 坂本 憲太郎さん 

本城U-BCfを下から
20年にわたり、北九州市と協力を進めてきた本城浄水場のU-BCF施設

 本城浄水場のU-BCFは、北九州市の独自技術ですが、実用化のために、神鋼環境ソリューションさんと協力して開発をすすめたそうです。U-BCFに営業の立場で20年にわたって関わっている神鋼環境ソリューションの坂本さんにお話を伺いました。

―御社の事業内容を教えてください。また、べトナムでのU-BCF(上向流式生物接触ろ過)の整備にあたって、御社の業務担当は?

 幣社は、水処理関連事業をはじめとし、廃棄物関連事業、化学食品機械関連事業など環境ビジネス・プラント事業を手掛けています。海外展開も積極的に進めており、世界各地に拠点を持っています。ベトナムでのU-BCFの整備事業にあたっては、工事の全体調整や土木工事などを担当しています。20年ほど前から携わっている北九州市と弊社の技術が世界へ進出するのは感慨深いです。

―エンジニアリングの会社での海外営業とはどのようなものですか?

 官公庁、JICA、コンサルタント、協業メーカーなど、幅広いお客様とコミュニケーションをとりながら、仕事をしています。情報収集やプレゼン、契約関係の整理など、担当する案件が円滑に進んでいくように、日々飛び回っています。

営業をする際に一番重要だと感じる能力は何ですか?

 積極的に自らアクションを起こすことが重要です。また、一緒に仕事をする皆さんと、必要な情報を漏らさず共有できる、コミュニケーション能力も大切です。

―海外との業務で苦労することはありますか?

 言葉は当然異なりますし、時差もあるので、やり取りには時間がかかります。また、海外は日本に比べて契約書で記載されたことが重視されますし、各国の独自のルールを押さえていくことも重要です。日本社会での「暗黙の了解」は通用しません。

―水道分野で今後、どのような海外展開を考えていますか?

 ベトナムでは、ハイフォン市の U-BCF 導入を皮切りに、ベトナム全土に展開していきたいと考えています。カンボジアでは、水道運営事業を行っています。海外展開を一層充実させ、現地で全て完結できる体制を整えたいです。

―技術系出身で営業を担当されている方もいらっしゃいますか?

 技術系出身で営業を担当している社員はたくさんいます。技術の裏付けをしっかりできることが強みで、お客様の信頼を得ています。これから皆さんは、エンジニアの道を目指すことになると思いますが、アグレッシブに活動・発信をしてください。また、人とのつながり、コミュニケーションも大切にしてください。

≪取材を終えて≫

 技術職でも営業という分野で活躍の場があると考えたことがなかったので、新たな発見でした。エンジニアの現場こそコミュニケーション力が大事と実感しました。

オンライン会議で対応する坂本課長
東京の事務所からオンラインで対応いただきましたが、北九州市にも頻繁に仕事で来られているそうです。

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第6話 「チーム北九州」で北九州市の独自技術をベトナムに展開②

山九株式会社

Webサイト: https://www.sankyu.co.jp/

お話:

山九株式会社

プラント・エンジニアリング事業本部 営業部 部長 岩城 勝也 さん

アンズオン浄水場現地事務所 マネージャー 藤木 達也 さん

アンズオン浄水場現地事務所 永田 實則 さん

アンズオン浄水場現地事務所 グェン さん

整備中のアンズオンU-BCF
整備中のベトナム・アンズオン浄水場U-BCF。

 ベトナム・ハイフォン市のU-BCFの建設のような大型プロジェクトでは、多数の企業・関係者が協力して、プロジェクトを進めています。そこで、北九州市に多数の事業所を持ち、プロジェクトに共同企業体として参入している山九さんですが、今回は建設現場に常駐してプロジェクトを進めている皆さんにお話を伺いました。

―御社の業務概要を教えてください。

 プラント事業から物流、オペレーションサポートまでワンストップで行う世界唯一の企業です。お客様の要望に柔軟に対応できるため、息の長いお付き合いをさせていただいています。

―ベトナムでの U-BCF (上向流式生物接触ろ過)整備にあたって、どのような業務を担当されていますか?

 主に機械工事と電気工事を担当しています。今日は、アンズオン浄水場の現地事務所、東京、中国からオンラインで中継して、お話をしています。

―日本とベトナムでの間で仕事をするにあたって、どのような違いを感じることがありますか?

 文化の違いや作業員のレベルの差を感じることがあります。そして、言葉の壁もやはりあります。英語のできる作業員に伝達をお願いすることもありますし、ボディランゲージや図での説明をすることもあります。

―海外業務でのやりがいやベトナムでのU-BCF完成に対する思いを教えてください。

 海外で仕事をすると、日の丸を背負って仕事をするという使命感を感じます。例えば、このアンズオン浄水場の U-BCF にも大きな日の丸とベトナム国旗が描かれており、誇らしく感じます。

 工事は、一筋縄では行かない場面も多々あり、 U-BCF に初めて水が入った瞬間は感無量でした。

アンズオン浄水場U-BCFに掲げられた、日本の資金協力で作られたことを示すプレート

―ベトナム人の社員の方から、日本人の働き方はどのように見えますか?

 他国の人と比べて、日本人は集団行動が得意だと感じています。でも、もっと自己主張したほうが良いと思う時もあります。

アンズオン浄水場から実況中継いただいたグェンさん
アンズオン浄水場から実況中継いただいたグェンさん

―エンジニアを目指す学生へのアドバイスをお願いします。

 将来エンジニアとして働くと、海外と関わるのは避けられません。そのため、海外の文化について知ることが大切です。また、若いうちの失敗は経験になるのでみなさんもたくさん挑戦しましょう。そして、エンジニアはいくつになっても日々経験することがあるので、初心を忘れず健康でいることが大切です。

≪取材を終えて≫

 いつも車窓から看板を眺めていた地元の企業が、グローバルに活躍をしていることに驚きました。地元にも世界で活躍する企業がたくさんあるとわかり、興味を持つようになりました。


2 北九州マイスター(溶接)

お話:

株式会社 サンキュウ リサーチ アンド クリエイト

西日本能力開発センター 教官 斎藤 幸一 さん

現地で技術指導を行う北九州マイスター
ハイフォンで溶接の実演指導を行う斎藤・北九州マイスター

 斎藤さんは、大型構造物の溶接作業において、高度な技術を持っており、北九州マイスターに認定されています。溶接工の技術・技能の伝承が課題となる中、日夜、数多くの社員、関連会社社員に対して技術指導を行っています。2019年、U-BCFの建設にあたって、配管の溶接指導のために、ベトナム・ハイフォン市を訪れました。

※ 北九州マイスター・・・北九州市が認定する「モノづくり」に関わる高度技能者。2020年1月現在、56名が認定。

―溶接では、これまで主にどんな業務に携わってきましたか?

 原子力の配管、ガスなどの配管、ビルの鉄骨などに携わってきました。自動溶接も増えてきましたが、細かい作業は手作業が求められます。難しい溶接をうまくできた時は、嬉しいものです。

―ベトナムでの技術指導の感想を教えてください。

 溶接の道具が少し日本と違うので、最初は戸惑いました。言葉は通じなくても、技術を見れば、分かり合えることは多いと感じました。溶接技術自体は悪くないのですが、安全面については意識の向上が必要だと感じました。

―人材育成において大切にしていることは何ですか?

 よい技術者になるためには、技能だけでなく、知識を身に着け、安全、効率も意識することが重要です。実践の場をたくさん持ち、ランクアップを目指せる環境が必要です。

 指導者としては、コミュニケーションをしっかりとり、皆さんの良い点を見るように心がけています。

インタビューを行う学生

―学生への期待やアドバイスを教えてください。

 自分の専門分野だけでなく、苦手分野や専門外の分野もしっかり勉強してください。また、先を考えて作業をする、相手の立場になって考えて行動するといったことも日ごろから心がけてください。

≪取材を終えて≫

 現地でしかできないような体験や現場での苦労などを聞くことができ、とてもためになりました。良い技術者になるためには、技術だけでなく、知識も大事とのことでしたので、学校の勉強でも改めて基礎を大切にしたいと思いました。

溶接の実例について説明を受ける。
溶接技術について、社内研修施設で説明を受けました。

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第7話 ベトナム・ハイフォン水道公社トップに聞く「日本の若者への期待」

ハイフォン水道公社

Webサイト:https://capnuochaiphong.com.vn/ (ベトナム語)

お話:

ハイフォン水道公社 会長 チャン・ベト・クォン さん

         副総裁 チャン・ヴァン・ズォン さん  ほか

 ハイフォン水道公社と北九州市は、国際技術協力を契機として、10年以上にわたるつながりがあります。アンズオン浄水場のU-BCF本格稼働を前に、ベトナムの水道の課題や、私たちへの期待などをオンラインで伺いました。

―今後のベトナムでの水道事業の課題はなんだと考えていますか?

 ベトナムは今後急速な都市化が見込まれています。水道インフラも都市の発展にあわせて拡大していく必要があります。まだ全ての市民に水道を提供できているわけではありません。少しでも多くの市民に水道サービスを届ける必要があります。

 また、ハイフォン市の水道の水源は、大きな国際河川の下流となります。上流からの汚染物質を取り除き、きれいな水源を確保する必要があります。

―一緒に働いてみて感じた日本人の印象を教えてください。

 日本人は皆さんフレンドリーだと感じています。特に、北九州市とは10年以上に渡り技術協力を行っており、友好関係を継続しています。仕事にあたっては、慎重でまじめ、いつも計画的に仕事をされています。北九州市の皆さんには、何か困ったことがあれば、いつでも相談させてもらっています。

―日本の技術をどのように感じますか?

 日本製のものは、品質がすごく良いと感じています。ベトナムだけでなく、世界中で高く評価されています。

 日本の製品を、開発途上国に導入する際には、事前の入念な調査が必要です。北九州市の独自技術であるU-BCF(上向流式生物接触ろ過)のハイフォン市への導入にあたっても、10年にわたって実証実験を繰り返した上で、導入されています。

北九州ウォーターサービスの専門家からU-BCFの運転指導を受けるハイフォン水道公社職員.
北九州ウォーターサービスの専門家からU-BCFの運転指導を受けるハイフォン水道公社職員

U-BCFは、ハイフォン市民にどのような利益をもたらすと思いますか?

 ハイフォン市の水源には課題が多いですが、 U-BCF の導入により有害物質を除去することができ、安全・安心な水を市民に届けることができます。また、薬品の使用を減らすことができ、市民の健康にも良い効果をもたらします。近い将来には、市内の他の浄水場にもU-BCFを導入したいと考えています。

U-BCFの運転が始まった後、水道水に対する評判は変わりましたか?

 日本はG7の加盟国です。そのような進んだ国の技術が導入されて、より高い評価を受けています。水道水に対する評価も高くなってきていると思います。ただし、U-BCFの効果を発揮するためには、良い運転・メンテナンスが必要です。私たちも技術を向上させるために努力しています。このような素晴らしい技術がハイフォン市にあることを今後、インターネットなどを通して、市民に情報発信したいです。

U-BCFのベトナムでの展開可能性を教えてください。

 U-BCFはベトナム各地へ展開可能だと考えています。ただ、万能な技術ではないので、調査と研究を通して、適用可能な地域を絞り込む必要があります。以前、北九州市、JICAと協力してベトナム6都市で実証実験を行いました。ホーチミン市でも大型設備の導入の計画があると聞いています。北九州市や他の水道公社と協力して、導入に向けたプロジェクトを進めていきたいです。

―ベトナムの水事情における最終目標はなんだと考えていますか?

 都市部と農村部で、水道普及率・水質の水準に差があります。この格差をなくしていくことが重要な課題と考えています。ハイフォン水道公社だけでなく、他の水道公社や国と協力して改善していくことが大切です。

 また、国民の経済水準を踏まえて、水道料金の設定をしっかり考えていくことが必要です。

―これからエンジニアになる日本の学生に期待していることを教えてください。

 北九州市の技術のおかげで、ハイフォン市民に安全な水を供給できるようになります。日本の若い皆さんには、優秀なエンジニアとなり、世界との架け橋になって欲しいです。

≪取材を終えて≫

 オンライン会議越しにもクォン会長をはじめ水道公社の皆さんの水道行政に対する熱い思いや日本の技術に対する信頼と期待を強く感じました。私たちも、海外からの期待にも応えられるエンジニアにならないといけないと感じました。

ウェブ会議の様子
ベトナム語ー日本語の通訳を介して、2時間に及ぶオンライン取材を行いました。

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最終話 まとめ ~エンジニアとして海外で活躍するというキャリア~

インタビュー終了後の集合写真

≪参加高専生の感想≫

・最初は軽い気持ちで参加したのですが、学校では学べない社会人の積極性やシビアさに刺激を受けました。エンジニアとしてキャリアを進めていくために、一皮むけたと思います。

・私たちのような学生に、担当の方から社長さんまで、真剣に向き合ってくれたのがとても印象的でした。しっかり勉強して、成長していかないといけないなと改めて思いました。

・最初は、水関係の仕事や公務員の仕事は自分に関係ないと思っていました。今回の経験を通して、エンジニアの活躍の場が想像以上に幅広いことを実感、私たちにも活躍の場があると強く感じました。

・エンジニアとしての活躍の幅を広げるためには、海外を意識しないといけないと改めて感じました。海外の現場を自分の目で見てみたいです。

・皆さんが共通して挙げるエンジニアとしての必要な要素はコミュニケーション力でした。エンジニアとしての仕事は、常にチームで動きます。コミュニケーション力を磨いていきたいと思います。

・「行政であれ、民間であれ、エンジニアは使う人の幸福のために動くべき」という言葉が心に残っています。社会のために活躍できる人間になりたいです。今回の経験を通して、行政や上下水道インフラも進路の選択肢と考えるようになりました。

≪北九州高専 グローバル推進センター長 白濱 成希 教授からのコメント≫

 KOWBA会員企業143社(市内76社)、総受注額200億円を超えるということからも、水ビジネスがまさに世界に必要とされていることがわかり、北九州市の取り組みの素晴らしさに改めて感じ入る次第です。本取り組みは、SDGs教育、グローバル教育、キャリア教育と、様々な観点から効果的だと考えております。また、今回ご協力頂いた行政や企業の皆様に、この場を借りてお礼申し上げます。

KOWBA臨時総会での事業報告
KOWBA10周年成果報告会で本事業の成果報告を実施。白濱教授からも講評をいただきました。

 ≪編集後記:北九州市上下水道局海外事業課≫

 本事業は、例年、若い世代への情報発信事業として実施している「上下水道ユース研修」の代替事業として、2021年9月に行われました。

 本事業も新型コロナの感染の拡大、大型台風の上陸など、様々なトラブルに見舞われましたが、日程の見直し、オンライン会議の活用などの工夫を行い、無事に終了することができました。企業・関係機関の皆様には、突然のお願いや予定変更などに快く対応いただくとともに、学生へ社会人としてのアドバイスを惜しみなく頂き、改めて御礼申し上げます。

 北九州市上下水道局海外事業課では、今後も海外事業の意義と魅力、きらりと光る市内企業を紹介していき、若い世代をはじめとした幅広い市民の皆さんに応援していただけるよう、努めていきます。

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